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new 生きた産業保健法学

生きた産業保健法学

令和6年9月13日 発売!


三柴 丈典(近畿大学法学部 教授)
日本産業保健法学会/協力


2024(令和6)年9月13日発行
B5判/386頁/本文1色刷


定価:4,400円(消費税込み)
送料:350円

 


内 容:


産業保健実務に必須の "生きた法知識" を豊富な判例から平易にひも解く!

◆産業保健スタッフや人事労務担当者が身に付けるべきリスク管理の法知識を、過去の判例から明瞭に解説。

◆職場での健康情報の取扱いについて、予備知識・基本原則からスタッフ間での情報共有のあり方、記録の本人への開示、条件整備の必要性まで、Q&A形式で実務目線から明快に回答。

◆ハラスメントや休職・復職判定、合理的配慮提供義務、海外勤務と健康管理、化学物質の自律的管理など、職場の現代的課題への適切な措置と対応方法を、判例を読み解く中から提示・解説。

◆近年増加する産業医をめぐる裁判例を未然防止・適切な事後解決の観点から詳細に解説。


「生きた法」とは、"法の作り手の思いと使い手の悩みをくむ営み"を意味する。平たく言えば、法をめぐる人と組織に焦点を当てることである(はしがきより)。『産業医学ジャーナル』2016年39ー6~2022年45ー2に連載され好評を博した「産業保健と法」を大幅に加筆・修正し、新たな書き下ろしも加えた一冊。
今や産業保健活動に欠かせない「法の知識・洞察・現場実務への応用」をめぐるバイブル、ついに刊行!



著者略歴:


三柴 丈典(みしば たけのり)

近畿大学法学部 教授

1971年生まれ。1999年一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。2000年近畿大学法学部奉職、2012年より教授。専門は、労働法、産業保健法。2011年4月から2021年3月まで厚生労働省労働政策審議会安全衛生分科会公益代表委員。2014年7月衆議院厚生労働委員会参考人。2020年11月に日本産業保健法学会を設立し、現在副代表理事。


協力者:日本産業保健法学会

生きた産業保健法の探求と教育を目的として、多くの方々の支援をいただきつつ、2020年に設立された。当初の設立と育成は主に本書著者及び著者に近しい方々が担ったが、現在の会員数は1000名を超え、年次学術大会には900名以上が参加。同学会が発行する、分野をリードする国内誌『産業保健法学会誌』と国際誌『Journal of Work Health and Safety Regulation』はウェブで公開され、万単位のアクセスを得ている。労使の健康にかかわる試行錯誤と対話に基づく自己決定の支援を重視することを理念に、多くの方々の自律的な活動により運営されている。

(2024年9月13日時点の情報です)


構 成:

はしがき


Ⅰ 産業保健法学の狙い

1 はじめに

2 産業保健法学の必要性をうかがわせる具体例~神奈川SR経営労務センターほか事件~

3 私傷病者に対する行政と司法の姿勢と産業保健専門職の役割

4 日本の安衛法政策の展開過程からみた産業保健法学の意義

5 取扱い範囲(scope)と当面の代表的検討課題

6 日本産業保健法学会の創設と和文及び英文ジャーナルの発刊


Ⅱ ケースワーク・実務的Q&A

1 想定事例~神奈川SR経営労務センターほか事件を参考に~

2 想定事例を素材とした設問と回答例

 ●回答に先立って~裁判所の筋読みについて

 問1 XがY1を相手方として、雇用契約上の地位確認請求訴訟を提起したら、認容されるか。根拠と共に述べよ。

 問2 XがY1を相手方として、問1の請求と併せて賃金や損害賠償の請求訴訟を提起するとすれば、どのような法的根拠にな
    るか。また、その請求は認容されるか。根拠と共に述べよ。

 問3 文中の下線(a)~(k)に示された以下の行為は合法か根拠と共に述べよ。

 問4 23ページの波線部(A)について、Xが産業医Eを相手方として、傷病手当金の不支給分(支給可能性のある18か月分
    のうち既支給の8か月分を除いた分)を請求する訴訟を提起したら、認容されるか。根拠と共に述べよ。

 問5 本件のような事件の有効な予防(未然防止・事後対応)策について述べよ。


Ⅲ 職場での健康情報の取扱いと法(1)

1 はじめに

2 予備知識

  ①人事労務関係者等のメンタルヘルス情報の取扱いに関する法知識の実際

  ②メンタルヘルス情報の特質

3 基本原則

  ①法規制の相対性について

  ②個人情報保護法の適用対象

  ③プライバシー権の本質と健康情報への応用

  ④刑法上の医師の守秘義務は産業医にも適用されるか

  ⑤「行政による健康情報等の取扱い4原則」と事情に応じたアレンジの必要性

  ⑥手引きが示す健康情報等の分類と取扱いのあり方

  ⑦本人の同意のとり方

4 「職場におけるメンタルヘルス対策のあり方検討委員会報告書」の示唆

5 メンタルヘルス情報の取扱いに関するQ&A

  Q1 一般に企業等で就業するカウンセラーは、その企業等の労働者に対するカウンセリングで得た個人情報を、どこまでそ
     の企業等の人事労務担当者や産業保健スタッフ、直属の上司などに提供することが許されるか?

  Q2 採用の際、精神疾患等の既往歴や現病歴等(以下、病歴等)を調べることは法的に可能か? また、病歴等を詐称ない
     し秘匿して入社した者を、入社後に解雇することは法的に可能か?

  Q3 消化器系の不調を示す内科医の診断書に基づいて、断続的に欠勤を繰り返す社員がいる。産業医は、同人に産業医面談
     や精神科受診を勧めているが、産業医に敵対的で聞き入れない。産業医面談や精神科受診を強制することはできない
     か?

6 おわりに


Ⅳ 職場での健康情報の取扱いと法(2)

1 健康情報等の取扱い

  Q1 法定健康診断は労働安全衛生法に基づき事業者が実施するものだが、事業者は、その健診結果を労働者本人の同意なし
     に把握できると考えてよいのか。その再検査の結果についてはどうか。

  Q2 Q1が可の場合、直接結果を見ることができるのは、事業者の構成員のうち具体的にだれか。社長はどうか、人事業務
     の責任者(人事部長等)はどうか、本人の上司に当たる管理監督者はどうか。そのうち一部が可とした場合、その間は
     どのように線引きされるのか。

  Q3 法定健診に併せて法定外の項目が検査される場合はどうか。

  Q4 ストレスチェックの結果に基づく医師の面接指導内容や、その後に示された医師の意見についてはどうか。

  解説

  [コラム 健康情報等の取扱いに関する指針と取扱規程について]

2 産業保健スタッフ間での情報共有のあり方について

  Q1 産業医や産業保健師など、産業保健スタッフは、個別に社員の相談に応じたり保健指導を行ったりすることがあるが、
     その結果については産業保健スタッフ間で共有しておくべきか。

  Q2 産業心理職などカウンセラーの場合も同じと考えてよいか。事業者が外部のEPA(Employee Assistance Program:
     従業員支援プログラム)等と契約していて、その外部機関に所属する心理職がカウンセリングで得た個人情報につい
     て、産業保健スタッフは共有可能か。

  Q3 事業者は、本人の同意なく外部のカウンセラーが保有する情報にアクセスできる場合があるか。そうした場合に用い
     られる「集団的守秘義務」とはどのような概念か。

  [コラム 心理臨床における集団的守秘義務]

  解説

4 情報取扱いに係る前提条件整備の必要性


Ⅴ 難治性疾患と就業上の合理的配慮義務

1 日本における合理的配慮義務化の背景

2 近年の関係判例

  1 通知なく勤務配慮を打ち切った会社の対応が労働契約承継法違反に当たると認められた例

  2 私傷病罹患者の職場復帰の訴えが、復職要件を満たしていないとして認められなかった例

  3 改正法に基づく合理的配慮義務の具体的内容~精神障害の事例を焦点に~

    ①アメリカの障害者差別禁止法における精神障碍者の扱い

    ②では、日本ではどうすればよいのか?

  4 難治性疾患に関する事例と筆者の法的所見

    ①筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関する相談例

    ②末期の悪性腫瘍に関する相談例

    ③白血病に関する相談例


Ⅵ 加害リスク内包疾患・副作用と就労可能性

1 はじめに

2 最近の代表的判例

  ①業務による運転中に、てんかん発作が原因で起こした死亡交通事故の使用者責任等が認められた例

  ②得られる示唆

3 その他の関係判例

  ①疾病と投薬の副作用があり交通事故を繰り返すタクシー運転手の解雇を適法と認めた例

  ②勤務時間中にてんかん発作を起こした条件付採用期間(民間で言う使用期間)中職員の免職処分が、権利の濫用であると
   して取り消された例

  ③業務中の失神発作によりタクシー乗務員が起こした交通事故について、使用者の刑事責任が認められた例

  ④得られる示唆

4 関係医学会のガイドラインの示唆

5 おわりに


Ⅶ ハラスメントの失敗学~裁判例を主な素材として~

1 はじめに

2 予防実務への示唆

  ①筆者による支援的介入の実践例

  ②法情報の分析等から導かれる予防実務への示唆

3 法情報

  ①ハラスメント情報の基礎知識

  ②関連法規・法理

  ③判例

   ●代表的な判例/名古屋南労基署長(中部電力)事件、静岡労基署長(日研化学)事件、前田道路事件

   ●最近の判例①~2010(平成22)年から2013(同25)年に出たもの~/地公災基金愛知県支部長(A市役所職員・うつ
    病自殺)事件/藍澤証券事件/日本ファンド(パワハラ)事件/ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然
    退職)事件

   ●最近の判例②~2014(平成26)年以後に出たもの~/サン・チャレンジほか事件/日本郵便株式会社事件/公立八鹿
    病院組合ほか事件/八社会事件/ツクイほか事件/杏林製薬事件/ファミリーブック取締役事件/東京地判平成28年
    9月23日/東京地判平成28年11月16日/A庵経営者事件/金沢大学元教授ほか事件/医療法人社団Y2ほか事件/フク
    ダ電子長野販売事件/地公災基金岐阜県支部長(岐阜市)事件/兵庫教育大学事件

4 おわりに


Ⅷ 海外勤務に内在する過重な疲労・ストレス要因に関する裁判例の示唆

1 はじめに

2 精神疾患を発症し自殺したのは、海外環境の不適応によるものと認められた例

3 長期間に及ぶ海外勤務と過重労働の後くも膜下出血を発症し死亡した事案において、遺族補償給付と葬祭料の支給が認められ
  た例

4 持病再発が質的な過重労働の影響によるものと認められた例

5 多量のアルコール摂取後の死亡が、度重なる海外出張を含む多忙な勤務状況に起因するとして業務起因性があると判断された
  例

6 脳梗塞発症が時差の大きい国への海外出張の連続によるものと認められた例

7 おわりに


Ⅸ 復職判定と法~一律的な判断基準に代わるもの~

1 はじめに

2 司法の復職判定基準

  ①就業規則規定との関係

  ②契約類型との関係

  ③その他の復職判定基準

  ④復職後も有効な基準か

  ⑤障碍者への対応

3 審査の判断要素・手続き

4 休職制度の法的性格と要件事実(主張立証責任)論、賃金支払義務の存否

  ①単に被用者の地位を保全したまま職務従事を禁じる処分とするもの

  ②単に被用者の地位を保全したまま職務従事を免じる処分とするもの

  ③実質的に解雇の猶予措置としたと解されるもの

  ④名実共に解雇の猶予措置としたもの

  ⑤その他

5 休職期間の延長

6 復職希望者への医療受信命令

7 産業医の関与の(法的)意義

8 陰性感情を招く事情(組合活動、職場秩序の紊乱)

9 リハビリ勤務の法的性格

10 厚生労働省による「職場復帰支援の手引き」の法的な扱い

11 業務上傷病で休職した者の個体的要因で休職が長引いた場合の法的処理

12 おわりに


Ⅹ 産業医に関する裁判例

1 産業医が直接被告とされた例

  ①産業医が単独で被告とされた例

  ②産業医が産業医と主治医の両面で被告とされた例

  ③産業医が選任者と共同被告とされた例

2 産業医が被告とされなかったが実質的に事件に関与した例

  ①被告とほぼ同レベルで事件に関与した例

  ②判決文中に「産業医」の文言が5か所以上登場する判例のうち、事件への関わりが一定程度認められる例

3 その他参考になる例

4 くみ取り得る産業医の行為規範


Ⅺ 職域の化学物質管理と法

1 はじめに

2 化学物質管理関係の主な民事裁判例

  ①裁判例

  ②得られる示唆

3 労働安全衛生法の歴史と化学物質管理

4 社会調査の結果

  ①国内でのウェブ社会調査の結果

  ②日英比較

5 安衛法令上の主な化学物質の分類

6 職域の化学物質管理政策の歴史~作業環境管理を焦点に~

  ①作業環境測定が法律レベルに書かれたことの意義と成果(1972(昭和47)年安衛法制定時)

  ②作業環境測定法制定(昭和50年法律第28号)の意義と成果

  ③法第65条の2の追加、作業環境評価基準設定の意義と評価

  ④作業環境評価基準の意義と評価

  ⑤環境改善機器の改良と法制度

  ⑥平成18年法改正~国によるリスク評価事業、リスクアセスメントの法制化~

7 「職場における化学物質等管理のあり方に関する検討会報告書」と令和4年法改正、今後の展望

8 おわりに~改めて職域化学物質の管理を考える~


Ⅻ 信頼される産業医を考える

1 産業医という仕事

2 産業医と法

3 産業医制度が法定されていない国で産業医が活用される理由

4 最新の海外の産業医・産業保健制度の調査からわかったこと

5 特に踏まえるべき近年の裁判例

6 労働政策の方向性と産業医の役割

7 誇りを持てる産業医とは